公開した用語集は、拾って育てる運用期に入った。日々の仕事で出会うカタカナ語を、見つけたそばから足していく。エフォート、ナレッジ、トンマナ、ペルソナ。手始めの4語で、さっそく挫折しかけた。
1語は7項目。4語で28マス。スプレッドシートのマスをひとつずつ埋めていく作業は、辞書が育つ喜びより先に、こちらの気力を削っていった。タブ区切りで一括貼り付けという文明の利器も教わったが、コピーの経路のどこかでタブがただのスペースに化けて、4語ぶんの文章がひとつのマスへ流れ込んだ。見えない文字は、見えないまま裏切る。区切り記号を「|」に変えてようやく収まったものの、毎回この操作かと思うと、気が重い。
いっそ本式のデータベースに作り替えるか、と相談してみた。返ってきた答えは、面倒の正体はデータベースではなく貼り付け作業のほうだ、というものだった。シートは、タダで手に入る出来のいい管理画面。捨てる理由がない。直すべきは器ではなく、入口だった。
その入口役は、意外なところにいた。この日、自分で用語集に書き足したばかりの言葉、GASである。説明文に「うちの社員寮です」と書いた、Googleの無料のプログラム置き場。そのGASで、シートのメニューに「用語を追加」という窓を生やした。AIが作った1行を貼って、OKを押す。それだけで列は勝手に分かれ、追加日は自動で押され、書き間違いや重複は入口で弾かれる。社員寮の住人が、用語集自身の入力係に就職した。
試験入力の第1号は「AX」。AIがいる前提で、仕事のやり方を組み替えること。一発で入った。
ところが公開ページを開くと、59語あるはずの用語集に、AXが1語だけ、ぽつんと表示されていた。原因はGoogle側の「どこまでが見出しか」を自動で当てる機能だった。追加日の列に日付が1件しかなかったせいで、その上の59行がまるごと見出し扱いされていたのだ。見出しは1行目だけ、と明示して解決。「&」も「<」も使わせてもらえなかった第3話に続き、裏方の親切は、今回も斜め上から来た。
ついでに、新入りの言葉には30日間だけNewの札が付くようにした。期限が来れば、勝手に外れる。並び順も、勝手に整う。シートは一番下に足すだけでいい。
引く辞書として生まれ、叩く辞書に作り直され、育つ辞書として公開されたこの用語集は、こうして自分の世話を自分で焼く辞書になった。その暮らしの最初の一語が、仕事の組み立てをAIありきで見直すという意味のAXだったのは、出来すぎた偶然だと思う。
※AI用語集は、「こちら」から引けます
(おわり)

