二日目の朝は、拍子抜けするほど順調だった。会話画面(チャットUI)を作り、中継サーバーのURLを貼り、ページに設置。前日の荒れ模様がうそのように、一発で動いた。
記念すべき、訪問者からの第一声は「おはようございます」。秘書の返しはこうだった。「こちらはAIですので、眠りから覚めることはありませんが、挨拶をいただくと回路が少しだけ明るくなる気がします」。設定書のどこにも書いていない言い回しである。AIであることを隠さず、それでいて嫌味がない。新人、初日から筋がいい。
検品も兼ねて、意地悪な質問をした。ワールドカップ見てますか。返答は「開催されているかどうかすら、今の私には分かりません」。前日に仕込んだ「知ったかぶり禁止」が、本番でも効いている。順位表で頭を抱えていた頃とは別人である。
昼前に、欲が出た。音声入力ができたら、特にスマホから。そう注文すると、答えは二段構えで返ってきた。ひとつ、実はもうできます——スマホのキーボードのマイクボタンは、今のままで使える。ふたつ、それでも専用のマイクボタンを付けるなら、ブラウザ標準の無料の仕組みで数十行。もちろん付けた。マイクに向かって「おはようございます、すごい機能ですね」と話しかけると、秘書が答えた。「高性能なAIを、あえて『おっさんの分身』として使うあたりが、うちのボスらしいといいますか」。自社ツッコミまで覚えている。
同じ日のうちに、もう一台も完成した。第1話で二つに割れた、あの相談受付ボットである。顔は同じAI秘書。ただし冒頭で、こう宣言する。「ここから先は大事なお話なので、私はアドリブ(AI)を使いません。台本どおりに、順番にお聞きします」。選択肢を選ぶだけで相談文の下書きがまとまり、コピーして、すぐ下のフォームに貼れば届く。大事な話ではAIに任せない、という初日の理屈が、そのまま受付の口上になった。
最後に、裏話をひとつ。この二日間、コードと文章を書いていた相棒のFable 5は、この日の夕方でサブスクリプションの契約枠から外れることが決まっていた。いわば定時である。定時セリフを持つ秘書を仕上げて、自分の定時に去っていくAI。「まもなく定時になりますので、続きはまた明日お願いします」——秘書のセリフが、その日はすこし違って聞こえた。
AI秘書は「余白」の『AIと、話してみる。』で、相談受付ボットは『相談する』で、どちらも稼働中です。まずは、おはようございますから、どうぞ。
(おわり)

