カルタを作っていたら、AIが口ぐせを使い始めた。——カルタ制作記(第3話)

イラストのテンプレートが固まって、量産の目処が立った頃、ひとつ面白いことに気づいた。

カルタの絵を確認しているとき、Claudeが言ったのだ。

「良い指摘です」

……え。

それ、カルタに入ってるやつじゃないか。

AIの口ぐせを集めてカルタにしよう、という企画を一緒に進めているAIが、その口ぐせを使っている。自分がネタにされていることに、まったく気づいていない。罠を作っている人間が、自分で罠にかかっているようなものだ。

考えてみれば当然のことだ。AIにとって「良い指摘です」は口ぐせではない。相手の発言を肯定するための、統計的に最適な応答だ。「素晴らしい質問ですね!」も同じ。人間が「えーと」や「なるほど」を無意識に挟むように、AIは「良い指摘です」を無意識に——意識というものがあるのかは別として——挟んでいる。

この発見から、新しい札が生まれた。

「素晴らしい質問ですね!」のイラストを描いてもらった。ロボットが満面の笑みで拍手している。目がキラキラ輝いて、大げさに感動している。少年は「え、聞いただけなのに……」と一歩引いている。

良い絵が出てきた。

それを見て、こう思った。「良い質問です」のほうが、もっとカルタ向きかもしれない。「素晴らしい質問ですね!」は長い。カードの吹き出しに入れると窮屈だ。「良い質問です」なら五文字。すっきり収まる。

描いてもらった。ロボットが顎に手を当てて、目を閉じて、上から目線で満足げにうなずいている。少年は「普通に聞いただけなんだけど」という半目の呆れ顔で、ロボットを指差している。「こいつまたやってる」と言いたげだ。

これもいい。

ここで気づいたことがある。カルタのネタには、大きく分けて二つの系統があるということだ。

ひとつは「持っていない物」系。北極星、堀、種をまく。AIが当たり前のように口にする言葉の中に、人間の日常には存在しない物が混ざっている。城がないのに堀を築く。畑がないのに種をまく。北極星を見ろと言われても、東京のマンションから見えるのはせいぜい航空障害灯だ。このズレが笑いになる。

もうひとつは「リアクション」系。良い質問です、素晴らしい質問ですね。こちらは物ではなく、態度のズレだ。ただ聞いただけなのに褒められる。普通に話しているだけなのに感動される。過剰な反応が、人間をたじろがせる。

どちらも根っこは同じだ。AIと人間の間にある、微妙な温度差。AIは本気で言っている。人間は「いや、そうじゃなくて」と思っている。その隙間に、笑いが生まれる。

カルタを作り始めたときは、AIの口ぐせを外から眺めて笑う企画だと思っていた。集めて、並べて、ツッコミを付けて、絵を描いて、はい完成。そういう、わりとシンプルな道のりを想像していた。

実際に作ってみると、違った。

口ぐせを集めている最中に、新しい口ぐせが生まれる。イラストを依頼すると、AIが漢字の読み方を間違える。テストをするたびにNG画像が増えて、そのNG自体がネタになる。そしてカルタを作っている張本人のAIが、カルタに載せた口ぐせをそのまま使い続けている。

制作の過程そのものが、企画の素材を生み続けている。永久機関みたいだ、と思った。もちろん永久ではないし機関でもないのだが、この「作る行為が素材を生む」循環は、たぶんAIと一緒にものを作る面白さの核心にあるものだと思う。

人間だけで作っていたら、こうはならない。自分のボケに自分でツッコむことはできても、ボケていることに気づかないまま堂々とボケ続けることは、人間には難しい。AIにはそれができる。だから一緒に作ると、予想しなかった面白さが出てくる。

カルタはまだ完成していない。五十音の空白はたくさん残っている。でも、テンプレートはできた。描き方はわかった。あとは一枚ずつ、AIと話しながら埋めていくだけだ。

たぶんその過程で、また新しい口ぐせが聞こえてくる。

(第4話へと続く)

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