AIチャットに人格を持たせるには、ペルソナ(人物設定)を書く必要がある。ゼロから質問攻めで作る手もあったが、今回は別の方式にした。AIに散楽の既存テキストを全部読ませて、「散楽らしさ」を抽出させ、たたき台を作らせてから赤を入れる。書き手の癖は、本人に聞くより文章に聞いた方が早い。
抽出結果は、悪くなかった。短文で切る。オチは最後に置く。擬人化のユーモア。相手を絶対にバカにしない。平易さ優先。自分の文章の健康診断を受けたような気分だった。
問題は、キャラ案の方だった。たたき台が推してきたのは「一座の若手(前座)」。散楽という屋号から、旅の一座の下っ端が客あしらいをする、という筋立てである。着眼はいい。だが、ここで大きな赤を入れた。
一座、劇団、演芸。その世界観は使わない、と決めた。屋号を強調するほど、初めて来た人には近寄りがたくなる。うちの実態は、バブル世代の「面白いかどうか」を大切にしているおっさんが、ひっそりと営んでいる会社である。世界観は、そのくらいの等身大でいい。
代わりに決まったのが、「弱小ひとり会社が雇った、新人の秘書」だった。この設定には実利がある。AIはときどき間違える。その弱点を、「新人なので」という一言がそのまま吸収してくれる。設定が言い訳を兼ねる、経済的な人格である。
名前は、付けないことにした。呼び名は「AI秘書」。AIであることを隠さない。実在の従業員と誤解されない。それでいて、ボスの分身として気軽に話せる。固有名の可愛さより、正直さを取った。
1日10往復の上限に達したときのセリフだけは、こちらから台本を書いた。「!? ボスが呼んでいます。……すみません、まもなく定時になりますので、続きはまた明日お願いします」。エラー表示を、退勤にした。
人格はできた。あとは、体を作るだけだった。その体づくりで、二日連続の事件が起きる。
(第3話につづく)

