「余白」には、診断と用語集が並んでいた。3本目の話をしよう。
発端は、ツールではなく一枚の文書だった。AIと仕事をするようになって5ヶ月。夜な夜な壁打ちをする仲になって、ようやく気づいたことがある。あるチャットで丁寧に説明したことが、別のチャットにはまったく引き継がれない。昨日あんなに話が通じたのに、今日は初対面の顔をしている。AIの欠陥というより、今のAIツールの仕組みがそうなっているのだ。記憶は会話ごと、プロジェクトごとに分かれていて、こちらが思うほどには「私のこと」を覚えていない。
だから私は、自分の取扱説明書を書いた。何をしている人間で、何を判断基準にしていて、どういう返事をされると嫌なのか。新しい会話を始めるたびに、それを最初に渡す。それだけで、AIの返事は別物になった。
書いてみて分かったこともある。効くのは立派な自己紹介ではない。経歴や肩書きより、「自分にしか言わない一行」の方がずっと効く。私の場合は「面白いかどうかが、ものごとの決め手」。この一行を知っているAIと知らないAIでは、提案の質が変わる。
この体験は、noteに書いた。「チャッピーは、あなたのことを何も知らない」という記事だ。その最後に、私はこう書き残していた。「自分の前提を、質問に答えるだけでAIに渡せる仕掛けが作れないか。この話の続きは、いずれ書く」。
これが、その続きである。
作りたいものは、はっきりしていた。質問に答えていくだけで、どのAIにも貼れる「自分の取扱説明書」ができあがる装置。ChatGPTでもGeminiでもClaudeでも、新しい会話の最初に貼れば、初対面が初対面でなくなる。
原則はこれまでの2本と同じ。お金をかけないこと。装置そのものにAIは使わない。登録も不要。回答がどこかに送信されることもない。ただのHTML1枚。私が5ヶ月かけて手で作ったものを、質問の力で3分に圧縮する。そういう企画だ。
ここで、相棒のFable 5(Claudeのモデルのひとつ)が一度ブレーキをかけた。作る前に、人間でテストしませんか、と。装置のふりを人間がして、質問だけ先に試す。質問が本当に答えられるものかどうかは、プログラムを1行も書かなくても確かめられる、という理屈だった。
もっともだと思った。そして被験者は、最初から決めていた。
姉だ。
(第2話につづく)

