第2話:姉の審判は「逆にめんどくさい」 (人力テスト編)

装置を作る前に、人間が装置のふりをする。「オズの魔法使いテスト」という由緒正しい名前がついているそうだ。カーテンの裏で機械のふりをして、質問だけを先に世に出す。

題材は「今晩の献立」にした。取扱説明書の質問をいきなり試すより、誰にとっても身近な話題で「質問に答えてもらう」という行為そのものを試したかった。作るのは誰か、何人分か、冷蔵庫にあるもので済ませたいか、時間はどれくらいか。7つの質問を用意した。

被験者は姉。1歳上で、物価が上がり続けるなかで日々の台所をやりくりしている人だ。私がAIにのめり込んでいることも、何か作り始めていることも知っている。つまり多少の身内びいきは織り込み済みの、それでも一番身近な「AIに詳しくない生活者」だった。

私はLINEを使っていないので、質問はショートメールで送った。姉からの返信は、前置きから始まっていた。

「今日のご飯は残り物総動員の鍋と決まっているけど、参考までにやってみます」

そして7問、全部に答えてくれた。冷蔵庫の食材を12品目も挙げ、最後の「AIにどうしてほしい?」には「意外な提案でよろしく😆」と絵文字つきで。姉弟とはありがたいものである。

質問でつまずいたところはないか、と聞くと「ないと思う」。質問の言葉づかいは合格だった。ここまでは、順調に見えた。

審判が下ったのは、そのあとだ。

「私はAIに献立まで依存したくないかな。逆にめんどくさい😓」

企画が一度、死んだ。少なくとも、死んだように見えた。

でも、返信を何度も読み返すうちに、妙なことに気づいた。姉は7つの質問に答えること自体は、まったく嫌がっていない。むしろ楽しんでいる。嫌がったのは「自分で決められることを、わざわざAIに肩代わりさせられる」ことだった。考えてみれば当然で、その日の献立は姉の頭の中にとっくに答えがあった。鍋だ。答えを持っている人に7つも質問するのは、ただの遠回りである。

しかも姉は、こう続けていた。「ダイエットとか病気食なら需要あるかも✨」。自分の頭に答えがないこと、制約が複雑なことなら話は別だ、と。断りの一言のなかに、需要の在り処まで教えてくれていた。

ここで、企画の芯が見えた。姉が殺したのは「献立」という題材であって、「質問に答えて、自分のことを語る」という行為ではない。人は、献立の相談は面倒がるのに、自分について聞かれるのは案外嫌いじゃないのだ。

作るべきは献立メーカーではない。取扱説明書メーカーで、よかった。

おまけに、テストは設計上の発見も残してくれた。7つの質問のうち、1つの質問に2つのことを聞いたもの——「買い物には行く?(節約したい気分かどうかも教えて)」のような形式——は、例外なく前半しか答えが返ってこなかった。人間は、複合質問の後半を読まない。この発見が、のちの設計の背骨になる。

(第3話につづく)

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