質問は全11問に決めた。設計の核心は、質問の数ではなく聞き方にある。
たとえば取扱説明書には「判断の軸」という項目が要る。でも「あなたの判断基準は何ですか?」と聞かれて答えられる人は、まずいない。私だって答えられない。だから場面で聞く。「ものごとを決めるとき、最後の決め手になりがちなのは?」——損か得か、面白いかどうか、みんなが納得するか。場面にすれば、選べる。
基本は選択式。自由記述は、どうしても本人の言葉が欲しいところにだけ置き、必ず例文を添える。入口では「AIとよく話している人」と「これから使っていきたい人」で道が分かれるが、ゴールは同じ。どのAIにも渡せる、自分の取扱説明書だ。
設計がまとまったところで、装置を作る前の最終チェックとして、自分で自分の質問に答えてみた。11問を並べて、上から順に。
1問、まるごと飛ばしていた。
飛ばしたのは「ふだんしていることを、ひとことだけ詳しく」という自由記述。選択式の質問はテンポよく答えていたのに、書く手間のある質問だけ、無意識にスキップしていた。設計した本人が、設計したての質問を飛ばす。姉のテストで見つけた「複合質問の後半は読まれない」と、根っこは同じ現象だった。人間は、リストの中の自由記述から逃げる。
だから装置は「1画面に1問」の構造にした。答えないと、次の画面が来ない。飛ばすという行為そのものを、構造で不可能にする。
事件はもうひとつあった。「親しい人しか知らない、あなたの取扱注意をひとつだけ」という、この装置でいちばん大事な質問。私は「締め切り前だけ天才」と答えた。我ながら的確だと思ったら、これは私が例文として自分で書いた文言そのままだった。私の場合はたまたま本当だからいいが(雑誌編集の出身で、締め切りにだけは異常に強い)、装置から見れば「本当にそうなのか、例文に流されたのか」の区別がつかない。例文は回答を助けると同時に、回答を乗っ取る。
そこで、例文とまったく同じ答えを書くと、装置が一度だけ聞き返す仕掛けを入れた。「それ、例文ですけど……本当にあなたのことですか?」。記念すべき最初の被疑者は、私である。
そして、今回いちばん気に入っている発明の話をしたい。
この「取扱注意」の質問は、答えるのがむずかしい。語れる人ばかりではない。語れるほうの私ですら別の質問から逃げたのだから、ここで黙って画面を閉じる人が必ず出る。だから「うまく言えない」という逃げ道を付けた。
ただし、無罪放免にはしない。逃げると、できあがる取扱説明書にこう書かれる。
「自分のことを一行で語るのは、ちょっと苦手なようです。会話の中で見つけたら、あなた(AI)から教えてください」
答えなかったことも、その人の答えなのだ。質問への答え方そのものが、その人のコンテキストになる。逃げ道が、逃げ道ではなく採集器になった瞬間だった。
骨組みは揃った。あとは組み立てるだけだ。
(第4話につづく)

